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洋食器コラム
 
 
■第13回  カップ&ソーサー■
 友人の話によれば、テレビ・キャスターなどで活躍中の英国出身ピーター・バラカン氏は仕事の合間のティータイム、いつでも紅茶しか飲まないのだそうです。同じアングロサクソンでも、しかしアメリカ人は圧倒的にコーヒー党です。歴史的な背景や地理的な理由などいろいろあるのでしょうが、そこえいきますとわれわれ日本人はなんでもゴザレ、です。

 さて久しぶりの今回のテーマは、カップ&ソーサーを取り上げたいと思います。 14世紀の終わりから15世紀にかけての地理上の発見、そしてそれに続く大航海時代は、ヨーロッパにココアやコーヒー、そして紅茶といった新しい嗜好品をもたらしました。また同じくして、大量に陶磁器が中国から入ってきました。新しい飲み物と新しい器が、ヨーロッパに新しい生活様式を生み出すことになったのです。

 しかし始めのうちは、今日のような作法が確立していなかったため、今からすればおかしな飲み方をしたこともあったようです。例えば、ボール状の容器に受けた飲み物を、さらにソーサーに移して冷ましてから飲んだ、といったようなことが実際にあったようです。このような背景があってのことでしょうか、マイセンの代表的なカップ&ソーサーであるノイエ・アウスシュニット型(ブルーオニオンが有名)は、カップに入れたコーヒーを下皿に移してみれば、両者の容量がほぼ同じであることが分かるはずです。

 ただし、容器が磁気製であって飲み物も新しいとはいえ、それまであった金属やガラス製の容器の影響は当然受けたでしょう。ですから、ヨーロッパで磁器の製法がおこなわれるようになると、ボール型の容器にハンドルが付くのにそれほど時間はかからなかったと思います。このハンドルはその後さまざまなスタイルが生まれます。リング型、ハート型、キドニー型から、さらにこれらを基にヘビやトカゲや鳥や魚に似せたものなどなど、と。また口縁よりも高い位地にハンドルの付いたハイ・ハンドルなどは、現在も人気の高いスタイルといえましょう。ダブル・ハンドルも単に装飾性だけを追及したものから、実用性をも考慮して作られたものもあることは、スープ・カップが良い例です。

 ホールダーを付けたり、トランブルースと呼ばれるカップの支えが付いたソーサーも考案されました。後者は主にココアを飲むために使用されたようですが、現在もヘレンドでは製作されています。 ところでココアはさておき、コーヒー・カップとティー・カップは、さていつごろから今のようにはっきりとした区別がされるようになったのでしょうか。1750年代のアンティークには、現在なら明らかにティー・カップと呼ぶしかないカップがあります。しかし、はたして今のように、そのカップはお茶を飲むためだけに使われていたのでしょうか。 いろいろな推測は可能ですが、1800年に入って、英国で一枚のソーサーにティーカップとコーヒーカップをセットにし販売されるようになった、事実があります。ですから、このころには少なくとも英国では、紅茶は香りや色を楽しむために口縁の広いカップが使用されるようになっていったとみて、間違いないでしょう。このカップは「ロンドン・シェイプ」と呼ばれ、R.アルバートのオールド・カントリー・ローズなどに、その伝統的な型(シェイプ)が受け継がれました。

 一方ヨーロッパ本土ではどうだったのでしょうか。ヨーロッパの名門ハプスブルグ家ではココアが愛飲され、コーヒーは格下の飲み物と見做されていたということを、以前紹介した「ハプスブルグ家の食卓」の著者は述べています。しかし、やがてココアは固形化の道をたどり、砂糖や生ミルクの普及とあいまって、次第にコーヒーのほうがより人々の生活の中に入っていったようです。有名なウインナー・コーヒーの誕生や、コーヒー・ショップの登場からもそのような印象をうけます。また背景にはイスラム圏との地理的・政治的な関係も影響していたようです。

  で、話をカップに戻すわけですが、最初のうちは前にも一寸触れましたヨーロッパで以前から使われていた容器の形状、この影響を強く引き継ぐことになります。「ペディスタイル」と呼ばれる、グラスの底部に似せて作られた基部などはその典型です。当時は今のような大量生産方式ではありませんから、いろいろな意匠の工芸品が作り出されます。まさに“百花繚乱”です。中には、実際の使用を考えてデザインされたか疑問をもつような製品も作られました。

  そうした流れに一石を投ずるかのように、セーブルから新しい製品が発表されます。樽に似た形状をした比較的シンプルなカップ、これがエンパイア・シェイプです。大きな反響を生み、かつその影響は後代にまで及ぶことになりました。もっともティー・カップは、とても優美かつ高貴で複雑なラインを描きます。まるで、コーヒー・カップを上から押さえつけたら出来てしまったかのような・・・、というよりも、突飛な例えですが、鏡餅の上に広い口縁を持ったカップを浅く切って乗せたような形、とでも言えましょうか。(これでは「優美かつ高貴な」イメージは湧きませんか?) さてさて予定の紙数が尽きようとしています。このほかにも、円筒形のものや多角形のものと、多岐にわたり、とても形状についてだけでもこの限られたスペースでは意を尽くせません。現代のマス・プロダクションの時代にあっては、かつての少量多品種の工芸品を作るような時代とは変わりましたが、カップ&ソーサーはメーカーによって複雑な形状の分類や、コード化が行われています。しかし、これらのことを一般の愛好家が知ってみても、あまり意味あるとは思えません。ただし、ウエッジウッドの製品はリー、ピオニー、キャン、ボンドなどと同一の絵柄を形状で区別していますから、これは覚えておくと便利でしよう。

  形状にも増して、カップ&ソーサーの重要な要素である金彩、絵柄、文様などについては、また別の機会に譲りたいと思います。

文責:三沢 厚

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