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洋食器コラム
 
 
■第8回  西洋磁器と王室の役割 ■
  「なにを言ってるんですか。これはロイヤルクラウンダービーですよ。ただのロイヤルじゃないですよ。」  その人は「クラウン」というところで思い切り力をこめて、言いました。  「クラウンが付くと、さらに製品の価値が上がることにでもなるんですか?」  わたくしはもう一度、念でも押すように聞いてみました。  「ロイヤルにクラウンじゃないですか。ロイヤルにクラウンですよ。」  商売上手のその人は目をしばたかせ、返事にもならないことをさらに力をこめるようにして言いました。一方わたくしは、ロイヤルでもクラウンでもなんでも良かったのです。その27センチ皿がとっくに気に入っていたので、結局三枚買うことにしましたが、後にその人は、わたくしと西洋磁器との関わりをつくってくれた大切な、思い出の人となりました。

 もちろん今ではこの「クラウン」に特別な意味なぞないことを知っています。言ってみれば、単なる固有名詞です。しかし、英国における「ロイヤル」には、ちゃんとした意味と歴史があるのです。

  わが国でも「宮内庁御用達」という大きな看板を堂々と店の前に掲げている古い商家を、今でもたまに目にすることがあります。英国ではいまだにこれに似た「王室御用達」の制度が健在なのです。そして、王や王妃、あるいは王子や王女の気まぐれで勝手にこれを決めたりすることのできない、ちゃんとしたルールや条件があるのだそうです。ですからこのロイヤルを冠した商品は、その品質を英国王室の名において保証していると解釈してもよいのではないでしょうか(ROYRAL WARRANTを直訳すれば王室保証です)。

 ただし、スポードウエッジウッドのように、王室と長く深い関係を持ち当然ロイヤルの称号を与えられていながら、それを社名に冠しないところがあることもやはり知っておくべきでしょう。
 なお、デンマークのロイヤルコペンハーゲンについては、クリスチャンセン7世(フローラダニカの製作もこの王が命じた)により1779年王立化され、1868年に民間へ移行するまで89年間にわたって続いた、その伝統を受け継いだものではないかと思われます。

 さてこのようにイギリスのみならず多くの王室が磁器と深く関わってきたことは以前にも述べましたが、今回は大国ロシアの有名な女帝エカテリーナ2世と、フランスはルイ王朝の全盛時代にルイ15世の寵愛厚かったドゥ・ポンパドゥール夫人、このお二人がどのような陶磁器との関係を持ったかについて少々触れておきたいと思います。
 
 エカテリーナ2世が陶磁器愛好家として人々に記憶される理由には、彼女が愛蔵した陶磁器がいずれも逸品であったことはもとよりですが、そのスケールの大きさにもあるのだと言ってよいのではないでしょうか。ロイヤルコペンハーゲンは12年もの歳月をかけて実に1802枚のフローラダニカを、ウエッジウッドは952点にもおよぶケロッグサービス(セット)を、そしてセーブルはこれまた744点におよぶトルコブルーの食器セットを製作し、その製品の出来栄えの豪華さと芸術的な価値や品質の高さを訴えました。まさしくこれらの製品は至宝と呼ぶにふさわしく、他の追随を許さぬ歴史的にも特別な存在となりましたが、それらの誕生が一人の女帝の権勢ともいうべきものだったことに興味をおぼえます。



ロイヤルクラウンダービー
ロイヤル・アントワネット
 もう一人のドゥ・ポンパドゥール夫人は、セーブルを世界最高位の陶磁器メーカーとするために、その礎を作る役割を果たした女性です。夫人はブァンサンヌ窯をセーブルに移させた後(セーブルは元来は地名)、ルイ15世に働きかけてさまざまな特権を与えさせました。例えば、西洋磁器にとって最重要の金採はセーブルだけに許された技法だったのです。さらにセーブルを王の所有にさせて、優秀な芸術家や技術者を多数招きました。
 フランス革命の後セーブルは当然王室との縁も切れますが、それまでに培った高い技術や伝統によって、その後も発展しつづけることができたのです。

 すでに書きましたが、陶磁器は相当長い間王侯貴族、僧侶等の独占物で一般市民には無縁でした。そのことの是非は別にして、しかしもしそうでなかったなら、今日わたくしたちが目にし、手にするような西洋磁器は多分存在しなかったのではないでしょうか。それも偉大で豪華絢爛であればあるほど。
  ちなみに、エカテリーナ2世には「ロシア人の血が一滴も」入っていなかったし、ドゥ・ポンパドゥール夫人は平民の出身でした。

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