2本の剣

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洋食器コラム
 
 
■第7回 マイセンマーク■
 今回のテーマは、一度は触れておかねばならない、あのマイセンマークと製作年代との関連についてです。
 マイセンの有名なバックスタンプ(=窯印)は、通称「青の双剣」と呼ばれています。約300年にわたるマイセンの歴史の中で、この代表的な窯印が時代とともに変化してきたため、製作年代を決定する上で、非常に大きな役割を負わされてきました。  しかしながら当初から、窯印に対する一貫した方針が製作者側になかったため、青の双剣のみならず、いろいろな窯印が用いられたり再使用されたりして、製品にたいする時代考証を困難にさせただけでなく、諸説紛々の混乱さえ招いてしまったのです。  マイセンも、初めのころは中国製と見誤るような漢字(もしくは、らしいもの)や、後から解釈するのが困難な凧の足のようなもの、はたまたアウグスト強権王のイニシャルや、しまいには落書きもどきの職人の妻女の名前までが刻印されたこともあります。しかし、1718年までは競争相手のなかったマイセンも、磁器の製法がヨーロッパに広まるにつれて、他者との区別を明らかにする必要が生じてきました。かくして1720年代の初めに、青の双剣が登場してくることになるわけです。ただし、正式に認定されたのは大分後の1731年のことです。

 しかしそれにしても、マイセンはフランスのセーブルのように、まだ窯印の重要さを十分に理解していたとは思えません。と言うのも、この作業に従事した作業者は見習いであったり、若年(14歳の者の記録あり)であったりと、あたかもやっつけ仕事的な印象を与えているからです。以後、長いこと形状もマチマチで多様な時代が続きます
 そのうえ、取引先の要望(商標登録上の理由もあったが)で、古いマークを安易に復活してみたり、変えてしまったこともあります。面白い例としては、1930年、トルコの取引先から双剣マークは十字架と誤解されるから、イスラム人を相手には困ると言われれば、いとも簡単にその要求を呑んでしまったことです。また同じころ、フランス商人から無印や、マークを上絵付けした製品を要求され、それにも応じたという話が残っています。  またマイセンは、下絵付けのマークだけを入れた無装飾の製品を大量に販売してきた長い歴史があります。マルコリーニの時代(1774−1814)のものなら、双剣の上に横一本の疵が入っているのはそうした商品です。もっともその後この疵は、製品の等級を表すためにも使われるようなります。  

 時代を特定するのをさらに困難にさせているのは、上絵付けされるまでに製品が長期にわたって工場内に在庫された場合、完成品との間に大きなタイムラグが生じてしまうということもあります。また、長い歴史を持つマイセンにとっては、膨大な数におよぶニセモノの存在も頭を悩ます問題です。  マークに関してある程度の秩序が生まれたのは、1850年交叉する剣の柄にそれぞれ点(=柄頭)が付された時でした。その後このマークは、1924年までの74年間とかなりの長命を保ちました。18世紀にもこれと似たマークはありましたが、ブレードが直線的でこの新しいマークのようにカーブしてはいません。なお、交叉する二つの剣の位置から、およその製作年代を知ることができると主張する考えもありますが、十分な論拠があるとは思えません。  1924年新しいマイセンの責任者となったフェイファーは、二つの柄の柄頭を取り、その柄の間に点を加えました。彼がナチスによってマイセンを追われた翌年の1934年までこのマークが使われましたが、その後、双剣の間の点が消えます。そして以後、ほぼそのままの形で現在に至るわけです。  

 さて、これまで製作年代を特定することは簡単ではない、ということばかり強調してしまったかもしれません。それで、簡単に特定できるケースも紹介しておきます。例えば交叉する二つの剣の柄を半円状に結ぶマークがあります。これは、第二次大戦後、敵対した剣が将来平和的に交わるようにとの願いを込めて作られたマークなのだそうです。このマークが使用されたのは1945年、1946年のたった二年です。したがって確かに製作年代は分かりました。しかし、敗戦で疲弊したドイツのこの時期に、完成度の高い製品を期待することができたでしょうか。  また、品質管理のことで言えば、そのルールがよく変更されたのもマイセンの特徴と言えるかもしれませんが、ごく短期間のみに適用されたルールから、製作年代を推定することができる場合もあります。しかしこれらは、品質的にはなんらかの瑕疵があって付されたしるしでもあるわけです。  

 このコラムの限られたスペースに、今回のような大きなテーマを取り上げようとすると、やはり断片的に触れてみることしかできませんでした。ここで言えることは、年代特定とマークとの関係はとても一筋縄ではいかないということ、それから品質的なことを考慮すると、ビンテイジワインではないですが、時代的背景も製品には大きな影響を及ぼしているのではないか、ということになると思います。単に古いから価値があり、新しいから価値が落ちるというようなことになると、その根拠がこれまで述べてきたように曖昧なだけに、大変にややこしいことになってしまいます。もっとも最後は、アバタもエクボというように、どんな時代のどんな製品であれ、「惚れたらおしまい!」ということでしょうか。エライ結論になってしまいました。
 なおマイセンにも、1948年からようやく製作年代を示すマークが入るようになりました。

幾種類かの青の双剣
初期の柄頭付双剣(18世紀)
マルコリーニ時代(含む初期のオッペル時代)の双剣
1850〜1924頃の柄頭付双剣
フェイファー時代(1924〜1934)の双剣
第二次世界大戦後の1945年と1946年の二年間だけ使用された双剣

※一般に双剣の上に横に付された一本の傷は、無装飾で販売された商品を意味し、品質的な意味も持つのはマルコリーニの時代の限られた期間です。
文責:三沢 厚

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